2018年10月13日土曜日

書評 『物語ドイツの歴史 ドイツ的とは何か』(阿部謹也、中公新書、1998年)

◆ドイツを理解する鍵は中世にある◆


  欧州一の経済大国、ドイツは国際ニュースによく登場する。今日のドイツの行動を理解するために、歴史を学ぶというのは自然な発想だろう。ドイツの場合は、急がば回れ、である。この国と国民について深みがありかつ役立つ認識を得るためには、中世まで遡ることを勧めたい。そして、この本がよき道案内となる。

  著者、阿部謹也氏は、中世ドイツ史の専門家で、『ハーメルンの笛吹き男』(平凡社、1974年)(ちくま文庫、1988年)で、江湖にその名を知られた。

  この本は、冷戦終結後1990年代までのドイツ史をカバーしている。叙述は基本的に時系列に沿っている。近代のドイツにしぼって学びたければ第10章以降、すなわち18世紀以降を読む、という読書法もできる。

  押さえておくべきポイントは、18世紀末、ドイツは300以上の領邦に分かれていたこと、19世紀にはいり、ナポレオン率いるフランスの影響下で領邦は40の単位に編成されたことだ。プロイセンが普仏戦争に勝利し、ドイツ帝国が成立したのは1871年であり、明治維新とほぼ同時期だ。

  著者は、19世紀のドイツ統一と、20世紀後半の欧州統合に関してこんな考察をしている。「ドイツの歴史はヨーロッパ連合の歴史のミニチュア版なのである」(p260)。19世紀にラント(領邦)を結びつけてドイツを作った経験と、欧州諸国が欧州連合を形成する動きに共通するものがある。

  第2次世界大戦後、西ドイツは欧州統合の優等生だった。1990年の東西ドイツ統一を経て、ドイツが欧州連合(EU)で主導的役割を果たすようになる。

  ドイツ人の国民性が持つ欧州統合との親和性をさらに掘り下げて理解しようとする時、中世に目を向けることが役に立つ。この本には中世に関する深い洞察があちこちに散りばめられている。現代のドイツ、ヨーロッパの現象を照らす光を発している。

  神聖ローマ帝国は、962年に成立し、1806年に消滅した。前述のように、ドイツは多数の領邦に分かれていたが、神聖ローマ帝国という理念は持続していたのである。ここでいう理念とは、神が創造した世界の統治を皇帝が神の代理者として行なっている、という考え方である。

  2015年に中東から欧州に難民が大量流入した際、ドイツのメルケル首相は、欧州の人権尊重の理念を守るためには、難民を寛大に受け入れる必要がある、という論を展開した。この理念への傾斜に、ドイツの中世からの伝統を見て取ることができる。

 ブログ執筆者がハッとさせられた箇所を抜き出してみよう。

「  一二世紀ルネッサンスの中心に個人の問題があったといって良いだろう。ヨーロッパにおいてはこの頃に個人が成立したのである」(45頁)

「帝国がキリスト教と深く結びつき、古代への憧れと深く関わるものであるとすれば、ラントは部族時代への憧憬が現実化したものということもできる」(68頁)

「一二世紀以来個人が徐々に成立し始め、一五世紀には一般民衆の間にも信仰の個人化が進んでいた。ルターはまさに一二世紀以来の西欧の個人(人格)形成の流れの中に立っていたのである」(93頁)

「領邦国家においては、権力が君主に独占されていったが、それはまず何よりも、宗教の独占を通して行われたのであり、領邦の宗教は君主の信仰によって定められたものであった」(135頁)

「強力な中央集権国家をついにもつことができなかった中世のドイツにおいては、都市か領邦が国家だったのである」(183頁)

「ドイツが栄光に輝いていたときの帝国とは俗人戦士と聖職者、つまり俗の権力をもつものと不可視の霊界が結びついた権力との協力によるものであり、また両者の拮抗の中で存続し得たものであった」(285頁)
 
  この本を読んで残念に感じたのは、ナチスドイツに関する記述が薄いことだ。阿部氏はナチス時代の専門家ではないので、遠慮が働いたのだろうか。

  ナチズムは近代を超克しようとした。ナチスの思想や行動の中に中世とつながるものがあったはずである。たとえ体系化されていなくとも、阿部氏のナチズムについての独自の見解を読みたかった。


著者について

1935年生まれ、2006年死去。一橋大学教授、学長を務めた。専攻は西欧中世史。


目次

第一章   ドイツ史の始まり
第二章   叙任権闘争の時代
第三章   個人の誕生
第四章   神聖ローマ帝国
第五章   中世末期の苦悩
第六章   宗教改革の波
第七章   一五・一六世紀の文化と社会
第八章   領邦国家の時代
第九章   三十年戦争の結末
第十章   ゲーテの時代
第十一章  ビスマルクの時代
第十二章  ヴァイマール体制へ
第十三章  ナチズムの支配と敗戦
第十四章  亡命と難民の時代
終章    ヨーロッパ連合の一員として

2018年9月22日土曜日

書評  『朝鮮戦争』(神谷不二、中公新書、1966年、中公文庫版は1990年)

    朝鮮半島を地球規模の視野で考察する◆




    朝鮮半島の問題を地球規模の視野の中で考える。そのトレーニングにうってつけの本である。

    初版の刊行は今から半世紀以上前だ。だが、今読んでも古びた感じはしない。、朝鮮半島の情勢を広い視野の中で考えるべき時が、再び到来したからだろう。

    朝鮮戦争の経緯が、国際情勢、特にアメリカの政策と関連付けられて、テキパキと描写される。

    朝鮮戦争について時系列的に把握したい場合は、冒頭から通読するのがよいだろう。

   この本の中で、最もきらめきを放っているのは、最後に置かれた「朝鮮戦争の意義」と題された章だ。 その光は今日まで届く。この章からひもとくという読み方もあり得る。

    そこで描かれているのは、第2次世界大戦後のアメリカが、世界をどのように捉え、どのような外交・軍事政策を展開したかだ。

    アメリカは当初、朝鮮半島を重視していなかった。ソ連が引き起こした欧州での出来事(1948年ー1949年のベルリン封鎖など)、中華人民共和国成立(1949年)を経て、アメリカは冷戦の枠組みで世界を捉えるようになる。共産主義の盟主ソ連が勢力圏拡大を続けているという世界観である。

    アメリカは、ソ連の勢力圏を封じ込める路線をとる。だからこそ、北朝鮮が韓国に侵攻した際、「それまでの南朝鮮放棄論をかなぐりすてて全面派兵にふみきった」(中公新書版173頁)のだ。

   先ほど、「光は今日まで届く」と書いた。それは今日の様々な事象を理解するのを助けてくれるという意味だ。なぜNATOが存在するのか。なぜ自衛隊があるのか。なぜ日米は同盟なのか。

   「朝鮮戦争の意義」から二つの箇所を引用する。 

(引用)
    朝鮮戦争をきっかけにして、アメリカは「封じ込め」をヨーロッパ大から世界大へ拡大するとともに、それを主として軍事力の次元で考えるようになった。(中略)日本および西ドイツの再軍備を促進することになり、それによって、いわば冷戦の基本図を礎定することになったのである。(中公新書版173ー174頁)

(引用)
    朝鮮半島の動乱は、日本の重要性を一段とクローズ・アップさせることになった。早期・単独講和が決定的となり、日米安保体制が樹立されたのは、朝鮮戦争がわが国にもたらしたもののうち、第一にあげるべきことであろう。(中略)この戦争によって、わが国は、決定的かつ明示的にアジアにおける反共軍事体制の中核たる地位を占めることになるのである。(中公新書版181頁) 

    朝鮮戦争は、実に世界的な影響を及ぼした出来事だった。この本を読んでそうした認識を持つと、今日の朝鮮半島の変動を、本気で考察しなくてはならないと思う。日本の進路にどのような影響があるのか。日本はどのような政策をとるべきなのか。

   最後に、ブログ執筆者の個人的回想を添えたい。神谷不二教授の思い出だ。1990年代後半、あるシンポジウムでの発言だ。北朝鮮の将来、または北朝鮮に対する政策を巡ってだった。パネリストの一人だった神谷教授は論語の一節を引いた。「糞土(ふんど)の牆(しょう)は杇(ぬ)るべからず」。北朝鮮を突き放して見ているんだなという印象を受けた。北朝鮮について考える時、この一節が時々、脳裏に蘇る。
     


著者略歴

1927年生まれ、2009年死去。国際政治学者、慶應義塾大学教授。

目次

Ⅰ 開戦前史
朝鮮の分割
南北両政府の成立
アメリカの基本政策と開戦

Ⅱ「解放」と「統一」
アメリカの参戦
解放の日きたる?
統一の日きたる?
ウェイク島会談

Ⅲ「まったく新しい戦争」
中国の参戦
中国参戦の背景
「一二月の退却」
マッカーサーの解任

Ⅳ 休戦
板門店の隘路
李承晩の抵抗
休戦協定の成立
ジュネーブ会議)

Ⅴ 朝鮮戦争の意義
世界政治の流れのなかで
戦後日本の歩みのうえで
朝鮮戦争関係年表

2018年9月15日土曜日

書評『11の国のアメリカ史』(上)(下) (コリン・ウッダード著、肥後本芳男・金井光太朗・野口久美子・田宮晴彦訳、岩波書店、2017年)

◆米国史を複数のネイションの歴史としてとらえる◆





 「アメリカ」「米国」という単語から何を連想するか。実在する人物、歴史上の著名人、あるいは特定地域の光景と様々だろう。戦後日本はアメリカの圧倒的な影響を受けてきただけに、一人一人の中に、米国に関連した様々な記憶や体験が生きているはずである。
 この本は、米国についての断片的な知識を結びつける力を持っている。
 キーワードは「ネイション(nation)」である。そもそも本の原題は、”American Nations: A History of the Eleven Rival Regional Cultures of North America  (New York: Penguin Books, 2011) ”である。邦題では『11の国』という訳を使っているが、直訳なら『11のネイション』となるはずだ。
 「ネイション」とは、文化を共有する人間集団を指す。この本を貫くのは、北米(米国とカナダ)は、11のネイションから成り立っているという主張だ。それぞれのネイションは、どのような集団がどこに植民したかを出発点とする。
 日本人の米国史のイメージと接点が多いネイションをいくつか抜き出そう。いずれも米国の建国前に根をもつ古参である。
    地図の上では、だいたい北から南に並ぶように選んだ。

▽ヤンキーダム
    代表的な都市はボストン。ピューリタン、ピルグリムが植民した。多くの人にとって、世界史の教科書でおなじみの土地。
▽ニューネザーランド
   ニューヨーク一帯。オランダ人が植民した。
▽ミッドランド
    代表的な都市はフィラデルフィア。英国のクエーカー教徒が植民した。その後で、ドイツ系の移民が大量に入ってきた。
▽タイドウォーター
    代表的な都市はワシントンD.C.。英国の郷紳階級が植民した。初代大統領ワシントン、独立宣言を起草したジェファーソンら、「建国の父」たちを輩出した。
▽大アパラチア
    アパラチア山脈の西側。「ボーダーランド人」と称される移民が多い地域。「ボーダーランド人」とは、イングランドとスコットランドの境界地域にルーツを持つ人々を指す。
▽深南部
    西インド諸島で奴隷を使った農業を行なっていた人々が移住してきて植民した。

    ブログ執筆者にとって新鮮であったのは、ミッドランドについての記述(151頁)だった。著者によれば、「最もアメリカらしいアメリカの原型」はミッドランドにあった。すなわち、「寛容で多文化で多言語の文明社会」である。「住人は適度に財産をもつ家族から成り、多くは信心深く、彼らの最も望んだこととは政府や指導者が彼らに平安な暮らしをさせてくれること」であった。
 ヤンキーダムについては、「非寛容で共同体主義的な道徳観を持つ」(21頁)。大アパラチアは、「個人主義的な享楽主義を掲げる」(21頁)と表現される。
 
 重要な点は、何世紀も形成された各ネイションの性格が、現代まで維持されてきたことだ。著者は、「初期定住効果学説」という学説に依拠している。それぞれのネイションの性格は実にしぶといのである。
 南北戦争が起きた経緯について、ネイション間の対立という観点から説明される。主軸は、深南部・タイドウォーター(いわゆる南部)とヤンキーダムの対立だ。これにミッドランド、アパラチアが絡んだ。著者は、展開次第では、米国が4つに分裂する可能性があったと指摘する。
 20世紀後半には、南北対立が「文化衝突」となって噴出する。「北部連合」(ヤンキーダム、ニューネザーランド、ミッドランド、レフトコースト)と「ディキシー連合」(深南部、タイドウォーター)が対立する図式だ。

 この本は、米国史について貴重な知見を与えてくれる。ネイションの性格の記述を縦糸に、その時々の出来事を横糸にした織物に例えられよう。
 ただ、疑問に思った点もある。
 南北戦争の分析が、奴隷制度を巡る対立に偏っているのではないか。経済的側面、すなわち北部と南部がそれぞれどのような経済政策を追求しようとしていたかについての言及は乏しい。
 現代の政治についての章では、大統領や有力議員がどのネイションに帰属するかという情報は参考になる。ただし、個々の政治家の行動をネイション帰属という観点だけから説明することはできない。
 ネイションとは人間の集団だ。集団のふるまいを観察する時に、ネイションという概念はもっとも有用性を発揮するのである。


著者について(訳者あとがきを参照した)

コリン・ウッダード(Colin Woodard)
歴史家・ジャーナリスト。1968年にメイン州で生まれる。1991年タフツ大学を卒業、新聞社の欧州特派員を経て、シカゴ大学大学院修了。地域の文化、歴史を対象とする著作を発表後、米国史に取り組む。


目次(上)

第1部  起源 ― 一五九〇年から一七六九年まで

第1章 エル・ノルテの創設
第2章 ニューフランスの創設
第3章 タイドウォーターの創設
第4章 ヤンキーダムの創設
第5章 ニューネザーランドの創設 
第6章 諸植民地の最初の反乱
第7章 深南部の創設
第8章 ミッドランドの創設
第9章 大アパラチアの創設

第2部 ありそうもない同盟 - 一七七〇年から一八一五年まで

第10章 共同の闘争
第11章 六つの解放戦争
第12章 独立か革命か
第13章 北方の諸ネイション
第14章 最初の分離運動

目次(下)

第3部  西部獲得の戦争 ― 一八一六年から一八七七年まで

第15章 西へ拡張するヤンキーダム
第16章 西へ拡張するミッドランド
第17章 西へ拡張するアパラチア
第18章 西へ拡張する深南部
第19章 エル・ノルテの征服 
第20章 レフト・コーストの創設
第21章 西部への戦い

第4部 文化戦争 ― 一八七八年から二〇一〇年まで

第22章 極西部の創設
第23章 移民とアイデンティティ
第24章 神と布教活動
第25章 文化衝突
第26章 戦争、帝国、軍隊 
第27章 権力闘争Ⅰ
第28章 権力闘争Ⅱ

終章

 

2018年9月8日土曜日

書評 『ビジネスパーソンのための近現代史の読み方』(佐藤けんいち、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2017年)

◆アングロサクソンを考察する◆





    若い人が国際ニュースに接して、「世界史を勉強し直したい」と思うことは多いだろう。次々と世界各地で発生する事件、事象を結びつけて、自分なりの絵を描くには、歴史の知識が必要だからだ。そんな風に歴史を勉強したいという動機を持った人に強くお薦めしたい一冊である。

    著者は、大学で歴史学を学び、卒業後はビジネス界で経験を積んだ。膨大な量の読書を通じた知的蓄積と思索を続けてきた。この本は、学問の志を持ち続けたビジネスパーソンの作品と言える。

    18世紀から現代までの世界史が対象だ。特徴は、「逆回し」という方法論を採用していることだ。今日起きていることから出発して、過去に遡っていく。

    出発点は、2016年だ。この年、英国では、欧州連合(EU)に残留するか、離脱するかを問う国民投票の結果、離脱が決まった。米国では、ドナルド・トランプという異色の候補が大統領選挙で当選した。この二つの出来事は、歴史の潮目が変わったことを示した。

    英国と米国、すなわちアングロサクソンは、それぞれ国益のためにグローバル化(グローバリゼーション)を開始し、推進してきた。その他ならぬ2つの国が、行き過ぎたグローバル化への反作用から、国民国家への回帰路線に転じたのだ。

    この本は、「アングロサクソン」と「グローバリゼーション」をキーワードとして、歴史を遡って行く。

    アメリカが覇権国として「パックスアメリカーナ」を確立した20世紀。そして広大な植民地を統治する大英帝国が覇権国であった19世紀へと。

    骨格を見れば、アングロサクソンについて書いていると言える。その他の国々についての記述は肉付けにあたるが、その部分もけっしてなおざりではない。

    フランスはフランス革命とナポレオン戦争を通じて、「国民国家」形成が国家を強力にすることを実証した。その意味で世界史に影響を与えた。

    ドイツ、イタリア、日本は19世紀後半に国家統一を果たし、上からの改革を進めた。20世紀にはソ連が誕生し、一党独裁体制で社会主義建設を試みた。この4か国の体制はいずれも70ー80年でいったん破綻した。

    佐藤けんいち氏が歴史の地層を掘っていく姿勢は一貫して現実的である。今日の現実をよりよく理解するため、という目的意識に導かれているという意味である。

   歴史を学んで、いかに活かすか。佐藤氏は次のように主張する。

「たとえ日本が、英米アングロサクソンのように世界をリードする意志も力量も持ち合わせていないとしても、日本が確実に世界に影響を与える存在であることは否定できないのであり、そのことを意識的に自覚することが、日本と日本人が世界で生き残るための条件となるのだ。(中略)ローカル文化を伝統として維持し続けることが、日本が世界に向かって「価値」をつくりだし、提供しつづけていくための基盤となる」 (74ー75頁)

   佐藤氏は、インターネット媒体を通じて、活発に発信している。「アタマの引き出し」は生きる力だ!というタイトルのブログを運営して、ツイッターも活用する。
http://e-satoken.blogspot.com/
https://twitter.com/kensatoken1985
 
   ウェッブメディア「JBPress」ではコラムを連載中だ。日々のニュースを切り口に、背景を説明する。個々の出来事を歴史の文脈の中で理解するのに役立つ。
 

目次

序章 なぜ「逆回し」で歴史を見るのか?

第1章 2016年の衝撃
ふたたび英米アングロサクソン主導の「大転換」が始動する

第2章 「現在」の先進国の都市型ライフスタイルは
 いつできあがったのか?

第3章 「第3次グローバリゼーション」時代とその帰結(21世紀)
冷戦終結後、秩序の解体と崩壊によって混迷が深まる

1 「グローバリゼーション」と「ネーション・ステート」の関係
2 「現在」を地政学の考えで空間的に把握する
3 「時代区分」としての21世紀
 冷戦終結後の四半世紀をひとまとめで考える
4 オバマ大統領の8年間を振り返る
米国は「内向き志向」を強めた
5 米国は本当に衰退しているのか?
6 「冷戦構造」の崩壊(1991年)と「ポスト冷戦期」
7 「人工国家・ソ連」の74年間の「実験」
8 日本「高度成長期」の奇跡
9 「1979年」の意味
 「サッチャー革命」「イラン革命」「アフガン侵攻」の影響が現在まで続いている

第4章 「パックス・アメリカーナ」
20世紀は「植民地なき覇権」の米国が主導した

1 米国の覇権体制と「パックス・アメリカーナ」
2 「成長の限界」と「持続的成長」の出発点としての1970年代
3 「米ソ冷戦構造」の時代と「アジア太平洋」の時代の始まり
4 「第二次世界大戦」(1939~1945年)
覇権国は英国から米国へと移動した
5 「大恐慌」(1929年)は米国から始まり欧州と日本に飛び火した
6 「第一次世界大戦」(1914年~1919年)で激変した世界
ここから実質的に新しい時代が始まった
7 「第一次世界大戦」……「西欧の没落」の始まりと米ソの台頭1
「ビジネス立国」米国は急成長した
8 「第一次世界大戦」……「西欧の没落」の始まりと米ソの台頭2
ロシア革命でソ連が誕生する
9 「第一次世界大戦」が引き起こした「帝国」の崩壊と「民族自決」
10 「帝国の解体」とイスラエル誕生への道

第5章 「第2次グローバリゼーション」時代と 「パックス・ブリタニカ」
19世紀は「植民地帝国」イギリスが主導した

1 大英帝国が世界を一体化した
2 「交通革命」と「情報通信革命」で地球が劇的に縮小
3 大英帝国内の大規模な人口移動
4 帝国主義国による「中国分割」と「アフリカ分割」
5 英米アングロサクソンの枠組みでつくられた「近代日本」
6 「西欧近代」に「同化」したユダヤ人とロスチャイルド家
7 「産業革命」は人類史における「第二の波」
8 「ナポレオン戦争」が「近代化」を促進した
9 「フランス革命」で「ネーション・ステート」(=民族国家・国民国家)と「ナショナリズム」は「モデル化」された
10 「アメリカ独立」は、なぜ「革命」なのか?

終章 「自分史」を「世界史」に接続する


著者プロフィール

ケン・マネジメント代表。1962年、京都府に生まれる。一橋大学社会学部・社会理論課程で「歴史学」を専攻、「社会史」研究のパイオニア阿部謹也教授のゼミナールで3年間まなぶ。1985年に、『中世フランスにおけるユダヤ人の経済生活』を提出して卒業。大学卒業後は一貫して民間企業に身を置いてきた。銀行系と広告代理店系のコンサルティングファーム勤務を経て、成長する中小企業では取締役経営企画室長として社長業以外のすべての機能を「ナンバー2」の実務担当者としてカバーした。その間、タイ王国では現地法人を立ち上げて代表をつとめた。2009年に独立して現在にいたる。1992年には米国最古の工科大学であるレンセラー・ポリテクニーク・インスティチュート(RPI)で経営学修士号(MBA)を取得、専攻はマネジメント・オブ・テクノロジー(MOT)。
著書には、『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』(こう書房、2012)、同書の中文繁体字版 『一個人的策展年代:串聯社群、你需要雜學資料庫』(世茂出版社、2013)がある。

2018年9月1日土曜日

書評 『朝鮮民族を読み解く』(古田博司、筑摩書房、1995年、ちくま学芸文庫版は2005年)

◆韓国と北朝鮮に共通するもの◆




   毎年、韓国や北朝鮮に関する多種多様な書籍が出版される。大型書店の朝鮮半島コーナーの前に立てば、よく分かる。たとえば大学生が韓国もしくは北朝鮮に関心を持ったとして、どの書籍からひもとけばよいのか、と困惑するのではないか。まずこれを読んでみたら、と薦められるのがこの本である。

    大学で東洋史を専攻した古田氏は、1980年に韓国から6年間、韓国で生活した。その後、日本で大学教員となる。韓国人との交流を通じて抱いた素朴な疑問、すなわち「なぜこのように彼らは考え、感じるのか」という問いに、一冊の本で自ら答えたと言える。

    実際の体験を織り交ぜて書いているところは読みやすい。

    特に面白いエピソードは、友人の結納の式を巡るものだ。古田氏は、韓国から帰国後、下関市の大学で働いていたころ、音信不通となっていた親友を探しに韓国へ赴く。探し当てたら、その友人は結婚話がまとまっていて、明後日の結納の式にお前も出ろ、という。古田氏はそこで、韓国における人間関係について貴重な見聞をする。

    ただし、この本は単なる体験報告ではない。朝鮮民族の人間関係について理論的な考察まで筆は及ぶ。朝鮮・中国の歴史と、朱子学など東洋思想についての造詣がその考察の土台となっている。

    理論的考察のキーワードは「ウリ(自分たちという意味)」「ナム(ストレンジャーという意味)」である。ウリは同心円の構造を持つ。内側にあるのが宗族(血族)で、その外側に同窓生があり、さらにその外に知人がある。韓国人にとって、血族の一員であるという意識は、日本人の想像を超えるほどに強い。

   こうした民族にとって、ネーション・ステート(国民国家)を形成することには困難が伴う。ステート(国家)はあっても、ネーション(国民)としての連帯感が乏しいからだ。

 1961年に軍事クーデターで韓国の権力を握った朴正熙は、祖先をまつる祭祀の簡略化を政策的に推進した。学校においては、民族主義と愛国主義を教えることに力を入れた。

 北朝鮮が選択したネーション・ステート作りの道は、より大胆であった。大衆への宣伝・教育を通じて、独裁者、金日成が国民の「親」であると教え込んだ。伝統的な祖先崇拝の対象の座に、金日成が据えられたのである。「国家と血族の二つの中心点をもつ楕円の世界を、金日成という核をもちいて一つの中心点に収斂させようとする試み」だった。

 李氏朝鮮が、中国由来の朱子学を徹底して実践したことも、朝鮮民族を理解する上で肝要な点だ。朱子学がさだめる葬礼、喪礼、祭祀を大衆の日常に強制した。日本で儒教が様々な思想と共存し、庶民の生活を律することがなかったのとは、事情が異なる。

 最後に、ブログ執筆者のこの本とのかかわりについて付け加えたい。1995年に出版された頃に読んで以来、この本を何度も読み返してきた。たとえば以下のくだりが、韓国人とつきあう上でとても役に立った。「朝鮮民族とは議論してはならぬ、共同会食すべし」。たしかに、韓国人は議論する時と飲食をともにする時では、別世界の住人であるかのように違う顔を見せることがある。

 この本は2005年、ちくま学芸文庫に収められた。文庫本のための「あとがきにそえて」が添えられている。(写真の左は1995年版、右は2005年版)



目次

第一章 韓国人の人間関係

第二章 北朝鮮の古くて新たな挑戦

第三章 宗族か民族か「個人」か

第四章 ウリとナムの力学

第五章 理気の世界

第六章 「事大」と「小中華」


著者について

1953年、横浜生まれ。筑波大学大学院教授。著書に『東アジア・イデオロギーを超えて』(読売・吉野作造賞)、『ヨーロッパ思想を読み解く 何が近代科学を生んだか』など。